学校の渡り廊下、実は問題だらけ?住民監査請求の結果を分かりやすく解説!

こんにちは、江戸川区議会議員の林あきこです。

今回は、区立平井東小学校で行われた渡り廊下工事を巡る問題で、私たちの税金がどう使われ、責任は誰にあるのか、住民監査請求が行われました。5月2日にその結果が出ましたので、その内容を分かりやすくお伝えします。

元のPDFはこちらから見ることができます→令和7年3月6日に請求のあった住民監査請求に係る監査結果

この問題、契約の仕方建物の安全性の二つに大きな問題があったということが、住民監査請求でも明らかになっています。

どんな工事だったの?何が問題だったの?

問題となった工事は、平井東小学校の既存校舎と「すくすくスクール」(学童クラブ)の間を行き来するための渡り廊下を新しく作る工事でした。工事の総額は1557万6000円でした。

しかし、この工事には、主に以下の問題が指摘されています。

  1. 違法な契約の分割発注
    • 本来、130万円を超えるような公共工事は、多くの業者が公平に参加できる「競争入札」という手続きで業者を選ぶのがルールです。
    • ですが、今回の渡り廊下工事は、なぜか1件あたり129万8000円という金額で12件に分割され、同じ業者に「随意契約」という形で発注されていました。
    • これは、競争入札を避けるために意図的に行われた、法律に違反するやり方だと監査委員も指摘しています。
    • 実は、このように競争入札を避けるための分割発注が、この5年間で1123件も行われていたことが明らかになっています。
  2. 建築基準法違反による安全性の欠如
    • 屋根のある渡り廊下のような建物を作る場合、建物の安全基準を満たしていることを区の担当部署(建築指導課)に知らせる「計画通知」という手続きが必要です。
    • しかし、この手続きが行われていませんでした
    • さらに、後から渡り廊下を壊して調べたところ、基礎の深さが足りなかったり、アンカーボルトの形や取り付け方、鉄骨の接合部分の厚さが基準を満たしていなかったりなど、建築基準法上の安全基準を満たさない点が複数見つかりました。
       ※安全基準については、すでに文教委員会で同僚議員によって指摘されております。

安全ではなかった渡り廊下はどうなったの?

安全性の問題が判明したため、子どもたちの安全を最優先に考え、渡り廊下の屋根と柱の部分は撤去されました。この撤去工事には、約86万円の費用がかかっています。なお、この費用についてはいったん区から支払われており、今後の扱い(不適切な工事を行った業者に支払わせるのかどうか)については検討中であると聞いています。

住民監査請求って?誰の責任が問われたの?

この一連の問題に対し、ある区民の方が「税金が違法・不当に使われ、区に損害が生じた。関係者に損害賠償を請求すべきだ!」として、区長に対し以下の人々への措置(損害賠償請求など)を求める「住民監査請求」を行いました。

  • 江戸川区長
  • 令和5年度の教育長
  • 令和5年度の総務部長
  • 令和5年度の学校施設課長
  • 工事を請け負った業者(受託事業者)

損害としては、工事費用の1557万6000円と撤去工事にかかった費用などが挙げられました。

監査の結果はどうなったの?

監査委員は、この住民監査請求を受けて調査を行い、それぞれの人に対する請求について以下のように判断しました。

  • 江戸川区長:請求は「棄却」
    • なぜか? 区長は、区の財務に関する権限の一部を特定の職員に任せています(権限の委任)。今回は、1件130万円未満の契約権限は学校施設課長に、それ以上の契約権限は総務部長などに委任されており、区長はこの分割発注の決定プロセスに直接関わっていませんでした
    • 区長が賠償責任を負うのは、部下の違法行為を知っていた、または知ることができたのに阻止しなかった場合(指揮監督義務違反)に限られます。今回の分割発注や安全性の問題について、区長が事前に知っていた、あるいは知ることができたという状況は認められないと判断されました。
    • また、現時点で区長が関係者への損害賠償請求などを「怠っている」とまでは言えない、と判断されました。
  • 令和5年度教育長、令和5年度総務部長:請求は「却下」
    • なぜか? 住民監査請求の対象となるのは、問題となった財務会計行為を行う権限を持つ者、またはその権限を委任された職員とされています。
    • 教育長は、法律上、今回の契約事務を行う立場にありません。
    • 総務部長は一定額以上の契約権限を委任されていますが、1件130万円未満の工事については、所管課長(学校施設課長)に直接権限が委任されており、総務部長はこの個別の分割契約に関与する権限はありませんでした
    • したがって、今回の問題について、教育長や総務部長は住民監査請求の対象となる「職員」には該当しないと判断されました。
  • 令和5年度学校施設課長:監査委員の「結論が出ず(合議不調)」
    • この元課長は、1件130万円未満の契約権限を持っており、今回の分割された契約の担当者でした。
    • 監査委員は、分割発注が違法である可能性は高いと認めつつも、それ自体が直接損害(契約金額全額など)につながるとは言い切れない、と判断しました。
    • 問題となったのは、安全性の欠如に対する責任です。元課長が建築基準法の手続きをしなかったことや、業者への指示・監督について、賠償責任(重過失が必要)が問えるかどうかが議論されました。
    • 監査委員の間で、元課長に「重過失」があったかどうかについて意見が分かれ、結論を出すに至りませんでした
  • 本件受注業者(工事を請け負った業者):請求は「一部認容」
    • なぜか? 業者は建築のプロとして、請け負った建物が建築基準法などの安全基準を満たす義務がありました。
    • 安全基準を満たしていなかったことは、契約の内容に適合しない「契約不適合(瑕疵)」にあたります。
    • 監査委員は、安全基準違反は、専門業者としての「重過失」に基づくものだと考えられると判断しました。
    • 契約の条項には、業者の重過失による契約不適合の場合、建物の引き渡しから1年以上経っていても責任を問えることが定められています。
    • これらの理由から、監査委員は区に対し、「撤去せざるを得なくなった屋根と柱を作るのにかかった費用相当額(ただし、撤去した部材に価値があればその分は引く)」と、「撤去にかかった費用」について、業者に損害を補填するよう求める措置を講じることを勧告しました。

監査委員からの意見と今後の期待

今回の件を受けて、監査委員は区に対し厳しい意見を述べています。

  • 本来必要な契約手続きが、担当部署の誤った認識のまま行われていたことが明らかになった。
  • 子どもたちの安全のためには、法令遵守はもちろん、工事契約に必要な手続きをしっかり行い、工事完了後の検査も確実に行うべき
  • 請け負った業者も、プロとして建物の強度や安全基準を満たすのは当然の責務。
  • 今回の問題を機に、区全体の事務事業を徹底的に見直し、再発防止策を講じること(全庁的な調査、第三者委員会設置など区は対応を進めている)。
     ※第4回定例会の一般質問でも、指摘をしています。
  • 職場のマニュアル見直しや職員が確認すべきポイントを明確化し、さらに「内部統制制度」の本格的な導入を進めるべき。

このように、今回の監査結果では、区長や元教育長、元総務部長の法的な賠償責任は認められませんでしたが、工事のずさんな実態や安全性の問題が改めて浮き彫りになりました。

監査委員は、安全性の欠如に対する責任の一部は工事を請け負った業者にあるとし、区に対して業者への損害賠償請求を勧告しました。

江戸川区には、この結果を重く受け止め、勧告に従って業者への賠償請求を進めるとともに、監査委員の意見を踏まえ、二度とこうした問題が起きないよう、職員の意識改革と組織全体の業務プロセスを根本から改善していくことが強く求められています。

今後の区の動きはどうなっていくの?

今回の住民監査請求の結論では、
「分割発注そのものは違法であったが、直ちに区に損害を生じさせたものではない」
という判断になっており、いわば“注意勧告レベル”の判断にとどまっています。
そのため、区として「義務」としてやらなければならない措置(例:損害賠償、契約取消、懲戒処分など)は明示されていません。
監査委員の「意見」はありますが、法的拘束力はありません。
よって、区が本気で反省・改善をしようとしなければ、“なかったこと”として処理されかねない状況です。
したがって、議会や区民がしっかりと監視し、定期的に再発防止策の実施状況を確認する姿勢を見せることが不可欠です。

私個人としても、会派としても、引き続き文教委員会や本会議で継続的に問い続けることが重要と考えております。区民の皆さまも、引き続きご注目いただきますようお願いいたします。

〈文教委員会報告〉江戸川区で行われた不適切な分割発注について

本日、文教委員会が開催され、江戸川区における不適切な分割発注の問題について報告がありました。

各メディアで報道もされています。

地方自治法において、地方公共団体の工事に係る請負契約は、機会の均等、公正性確保等のため一般競争入札によることが原則とされており、指名競争入札や随意契約によることができるのは、地方自治法施行令で定める要件を満たす場合に限られています。請負契約を随意契約とすることができるのは、予定金額が130 万円未満の場合であり、江戸川区で行われた分割発注は「脱法行為」である可能性があります。

当会派では、この案件の重大性を踏まえ、徹底した精査が必要であると考えており、本日の文教委員会で詳しく質問を行いました。

分割発注に関する新たな事実

他の委員の質疑を通じて、以下の点が明らかになりました。

  • 関わった工事業者についての公表について、全庁調査では109社が関与していることが判明しているが、業者名の公表については全容が解明されてから考えていきたい。
  • 調査メンバーには用地経理課長が含まれていますが、同氏は過去に学校施設課長を務めており、当事者である可能性がある。そのため、調査を担当するのは適切ではない。
  • 他の委員が情報開示請求で図面を取り寄せたところ、「施工図」が出てきた。「設計図」でも「竣工図」でもない。
  • 情報開示請求によって明らかになったが、平井東小学校で渡り廊下の工事を行ったのは、学校改築工事でも関わっている区内業者のグループ会社である。

調査の問題点と区民への影響

調査結果が公表されたものの、以下の重要な観点が欠落しています。

  • 何が最も問題なのか明確ではない。
  • 区民に経済的被害が発生しているかどうか不透明。
  • 余分な支出があったのか、割高な契約となっていないかの視点が不足。

さらに、建築物の安全性に関しても疑問が残ります。

  • 指摘のあった建築物について、区の専門職が現地確認を実施。しかし、提供された資料は極めて少なく、十分な調査が行えない状況。
  • 子どもたちの安全を考慮し、一部の施設の使用を見合わせる判断がなされました。
  • 教育委員会には、安全確認の義務があり、必要であれば使用を差し止めるべきとの意見もありました。

情報開示の問題

  • 分割発注に関与した業者名について、公表を求める声があるものの、区側は全容解明後に判断するとしています。
  • しかし、平井東小学校の渡り廊下工事では図面すら提出されておらず、DIYレベルの施工が行われていたことが判明しました。
  • 義務違反を犯した業者を公表しない理由が不明確であり、透明性が欠如しています。

教育委員会の責任

1月30日の臨時記者会見において、区長、副区長、教育長の給与減額が発表されましたが、維新会派は以下の点に疑問を抱いています。

  • 教育委員会では過去5年間に1030件の不適切な分割発注が行われており、全体の91.7%を占めています。
  • それにもかかわらず、教育長の処分が区長より軽いのは妥当なのか。
  • 第三者委員会による調査が行われていない現時点での処分決定は適切なのか。
  • 3か月間の給与減額(区長10%・教育長と副区長5%)が適正かどうか判断できる材料が不足している。

当会派は、教育委員会事務局における分割発注問題を法令違反の可能性だけでなく、税金の無駄遣いという深刻な問題として捉え、議会での検証を進める必要があると考えています。

追加の情報開示要求

1月30日の会見では、過去5年間の調査結果として以下のデータが示されました。

  • 教育委員会の請負工事件数:6193件
  • そのうち、不適切な分割発注:1030件

今後の検証のために、当会派はこの1030件すべての工事名や契約先、分割数などを含めた一覧の開示を求めました。

しかし、区側は「法令違反を明確に特定できるものがあるか不明」との理由で、資料提供に消極的な姿勢を示しており、開示が出来るかどうかについての検討は持ち帰りとなり、結果は後日知らされることになりました。

当会派は、区民の税金が適正に使用されているかを確認し、透明性を確保するため、引き続き厳しく検証を進めてまいります。